仕事帰り、家とは反対方向へ―180SXで走った道

もう、30年以上前になる。初めての愛車、180SXに乗っていた頃、通った道がある。

松尾山農免道路

当時は交通量も極端に少なく、工事車両以外、ほぼ独占状態だった記憶がある。鍋谷トンネルができたことで、和歌山へ抜けるアクセス道路の一部として交通量も大幅に増えてしまった。今とは、ずいぶん違ったのだと思う。
そして自分は、仕事が終わるとよくそこへ向かった。

家とは正反対の方向だった。

目的地はなかった

普通なら、そのまま家に帰ればいい。仕事で疲れているのだから、なおさらだ。

でも、180SXに乗ると走りたくなった。だから、素直には帰らなかった。

ほぼ、毎日のように、松尾山農免道路へ向かった。

目的地があるわけではない。誰かと待ち合わせをしているわけでもない。

ただ走る。それだけだった。

当時、「自分との対話」なんていう言葉で考えていたわけではない。でも、車の中に一人でいる時間が好きだった。

仕事であったことを考えたり、これからのことを考えたり。何を考えていたのか、その内容までは、もう覚えていない。

でも、180SXを走らせていたことは覚えている。

今になって思えば、あれが自分にとっての「走る時間」だった。

開通したばかりの阪和自動車道

開通して間もない阪和自動車道を走ったこともある。若かったこともあり、一度どこまで出るのか試してみた。

アクセルを踏み込み、速度を上げていく。(ここで速度は触れないでおく)

すると、思っていた以上に感覚が変わった。

視野が狭くなり、景色は飛ぶように後ろに流れていく。フロントガラスには、虫がパチパチと当たる。そして一瞬で思った。

「これは無理だ」

アクセルを緩めた。

今なら、それで良かったと思う。速く走る事だけが、車の楽しさではない。

むしろ今の自分が求めているのは、速さではなく、あの頃のような「走る時間そのもの」を楽しむことなんだと思う。

リトラクタブルヘッドライトが好きだった

180SXで好きだったものはいろいろある。その中でも、リトラクタブルヘッドライトは特に好きだった。

ライトを点ける。ボンネットの中からヘッドライトが起き上がる。

ただ、それだけ。でも、妙に恰好が良かった。

今考えれば、ずいぶん無駄な機構なのかもしれない。でも、車にはそういう「ちょっとした無駄」があった。

そして、その無駄が好きだった。合理性だけでは説明できないもの。車に乗る楽しさには、そういう部分もあるのだと思う。

走った時間は、目的地よりも残っている

あの頃、走ることに目的はなかった。だから、どこへ行ったのかを細かく覚えているわけでもない。

それでも、仕事帰りに180SXに乗り込み、家とは反対方向へ向かったことは覚えている。

不思議なものだ。

目的地は忘れているのに、走っていた時間は残っている。

たぶん、自分にとって大切だったのは「どこへ行ったか」ではなく、「その時間をどう過ごしたのか」だったのだろう。

今、Ride Horizonで残したいと思っているのも、きっと同じものだ。

目的地を紹介することではない。速さを競うことでもない。ただ、その日に走った時間を残す。

あの頃、無意識に楽しんでいたことを、今度は意識して記録したいと思っている。