走る時間、自分との対話は180SXから始まった

                                       <Image: AI Generated>

車を運転することが、好きだった。正確に言えば、車そのものが好きだったのだと思う。

今から30年以上前。高校時代の同級生たちは、18歳になると免許を取り、アルトワークスなどを買い、走り回っていた。

自分は19歳で免許を取った。たった1年の違いなのだけど、当時は、少し波に乗り遅れたような気がしていた。

そもそも、免許を取ったからといって、すぐに車を買える環境でもなかった。ニュータウンにある団地住まいだったこともあり、駐車場の確保が難しかったのだ。

それでも、車は欲しかった。就職すると、車を買うためにひたすら貯金をした。

いつか自分の車を持つ。それだけを楽しみにしていたような気がする。

本当はS13シルビアが欲しかった

当時、欲しかったのはS13シルビアだった。ところが、いざ購入しようと思った頃には、S14へのモデルチェンジが迫っていた。

S13は終売。

欲しいと思った車が、欲しいタイミングでは、もう新車で買えない。そんなこともあるのだと、その時初めて知った。

そして別の店舗で商談したのが、黒い180SXだった。

「これにしよう」

そう決めた。22歳くらいの頃だったと思う。グレードは、よく覚えていないのだけれど、CDとオートエアコンが標準装備だったので、おそらくタイプⅢ、ボディーカラーは純正の黒、もちろんマニュアル車。

自分にとって、初めての車だった。

ようやく手に入れた180SX

車を買うことを決めても、最後まで問題だったのが、駐車場だった。

ところが、ここでも運が良かった。

家からは、かなり遠かったけど、何とか安い駐車場を見つけることができた。今考えると、ずいぶん不便だったと思う。それでも、当時はそんなことは気にならなかった。

ようやく自分の車が持てた。しかも、ずっと欲しかったスポーツカーだ。180SXに乗っている。それだけで嬉しかった。

カスタマイズも、それほどしていない。ホイールを交換し、シートをRECAROのセミバケにしたくらい。でも、それで十分だった。

車を持っていること自体が、一つのステータスでもあった。そして何より、走ることが楽しかった。

車があるだけで、世界が少し広がった

当時は、今のようにスマートフォンもSNSもない。誰がどこを走っているのか、どんな車に乗っているのか、ネットで簡単に調べることも出来なかった。(そもそもインターネットすら無かった時代)

だから、自分の車との時間は、もっと個人的なものだったのかもしれない。

180SXに乗って道路へ出る。それだけで楽しかった。仕事が終わっても、まっすぐ家には帰らず、わざわざ遠回りして走ることも増えた。家とは反対方向へ向かうことさえあった。

目的地があったわけではない。

誰かに見せるためでもない。

ただ、自分が走りたかった。

今になって振り返ると、あの時間が自分にとっての「走る時間」の始まりだったのだと思う。当時はもちろん、そんな風には考えていなかった。ただ、車を走らせている時間が好きだった。

あの頃は、まだ知らなかった

180SXとの時間は、そう長くは続かなかった。

その後、結婚し、子どもが生まれ、車に求めるものも少しずつ変わっていった。

ただ、一つだけ今でも覚えていることがある。180SXを手放してから何年たっても。

「走ることが好き」という感覚だけは消えなかった。

しばらく眠っていただけだったのだと思う。

そして、55歳になった今、もう一度、自分のために走る時間を作ろうとしている。

あの頃とは、年齢も環境も違う。でも、道路に出て、車を走らせるときの気持ちは、もしかすると、それほど変わってないのかもしれない。

走る時間、自分との対話。

その原点は、あの黒い180SXだった。