
「若い頃なら、もっと簡単に乗れていたのだろうか」
大人になってからの新しい挑戦には、予想以上の壁が立ちはだかります。前回の8の字走行での躓きをイメトレでなんとか乗り越え、いよいよ第一段階の後半へ。しかし、そこに待っていたのは、自分の体の衰えを突きつけられる「課題走行」の数々でした。
仕事や家庭で日常的に様々な判断を下している世代だからこそ、「失敗できない」「ケガはできない」というプレッシャーや恐怖心が、無意識に体に力みを生ませてしまいます。
今回は、教習所で多くの人が苦戦する「一本橋(平均台)」と「スラローム」、そして予期せぬ怪我や恐怖心とどう付き合い、攻略していったのかをリアルにお届けします。
【課題1:一本橋】覚醒のきっかけは「進入スピード」と「遠くを見る視線」
教習の難所として有名な一本橋(平均台)。幅約20cm、長さ約15mの板の上を、落ちずに時間をかけて走り抜ける課題です。
最初は何度やっても脱輪するか、バランスを崩して右に流れてしまい、成功率はほぼゼロ。「自分のバランス感覚はここまで落ちていたのか」と落ち込みました。しかし、教官からのアドバイスと白線を使った練習で、劇的な変化が訪れます。
克服のポイントは以下の2点でした。
- 進入時のスピード: 勢いをつけると飛び出しそうで怖かったのですが、実は「乗る瞬間」にある程度のスピードがないと、低速でのバランスが安定しません。「しっかり勢いをつけて乗る」ことが第一条件でした。
- 視線は常に遠くへ: 自転車の練習と同じで、手前や足元を見るとバランスが崩れます。乗った瞬間に意識をフッと切り替え、視線をはるか先の出口に向けることで、車体が驚くほど安定するようになりました。
この2つを意識してからは、クラッチとリアブレーキで速度調整をする余裕まで生まれ、一本橋への恐怖心は完全に消え去りました。
【アクシデント】怪我と恐怖心との戦い
順調にいかないのが大人の教習です。課題練習中、足だけで車体を止めようとして体勢を崩し、左肘を痛めてしまうアクシデントが発生。さらに別の日には、スラロームの練習中に派手に転倒し、左すねを強打してしまいました。
若い頃なら「痛かった!」で済むかもしれませんが、大人はそうはいきません。明日の仕事や生活への影響が頭をよぎり、一度転倒すると「また倒れるのではないか」という恐怖心から体に余計な力が入り、操作がぎこちなくなるという悪循環に陥りました。
教習の進捗もストレートとはいかず、補習が重なります。隣でスムーズにみきわめを通過していく若い教習生を見て、「やっぱりもっと早く取るべきだったか」と焦りや後悔が胸をよぎる瞬間もありました。
【課題2:スラローム】感覚ではなく「理屈」で理解する構造の面白さ
最後まで苦しんだのがスラロームでした。規定タイム(8秒以内)を切るためには速度を上げる必要がありますが、スピードを出すのが怖く、ハンドルだけで曲がろうとしていたためタイムが縮みません。
突破口となったのは、教官の後ろにタンデム(同乗)してプロの動きを体験したこと、そして「バイクの構造的な理屈」を頭で理解したことでした。
教官から教わったのは、バイクの挙動とアクセルの関係です。
- アクセルオフ: 自然とハンドルが切れ(セルフステア)、車体が傾いて曲がり始める。
- アクセルオン: 駆動力が発生し、倒れた車体が自然と起き上がる。
つまり、アクセルは単にスピードを出すためのものではなく、「車体の傾きや姿勢をコントロールするためのスイッチ」だったのです。
若い世代が感覚(センス)で自然とやってのける操作も、経験を重ねた大人は「理屈」として理解することで落とし込むことができます。教官の「倒れそうになったらアクセルを少し開ければ起き上がる」という言葉を実践すると、車体のコントロール感が劇的に変わり、タイムも一気に目標圏内へ近づきました。
【次回へ】諦めなければ、体は少しずつ応えてくれる
若い頃のような鋭い反射神経や怖いもの知らずの勢いはなくても、理屈を理解し、一つひとつの課題を丁寧に分析して克服していくプロセスは、大人ならではの楽しみ方でもあります。
補習を重ね、肘やすねの痛みに耐えながらも、確実に自分の感覚がアップデートされている手応えを感じています。
次回、いよいよ第一段階の総仕上げ「みきわめ」に挑みます。


